高額所得者(と)の離婚における注意点

配偶者が高額所得者である場合の財産分与

離婚に伴う財産分与においては、夫婦の共有財産の把握がとても重要となります。ご自身が配偶者の給料の振り込まれる通帳を管理しているなど、家計のすべてを把握している場合は問題ないですが、そうでない場合には、速やかな共有財産の把握が必要です。

特に、これから別居を考えている方の場合には、別居前に、可能な限り、夫婦の共有財産の把握に努めることをお勧めします。

ただ、高額所得者の場合には、預貯金のほか、積立金や株式、生命保険、不動産など、財産が分散していることが多いといえます。最近では、大手企業で企業型確定拠出年金の制度を導入しているところも増えたため、確定拠出年金の加入者も増えております。

また、そもそも、自分では気付いていない財産分与対象の財産がある可能性もあります。たとえば、配偶者が1人会社の代表取締役である場合、会社名義の財産でも、それが実質的には個人の財産であると認められれば、財産分与の対象となる可能性もあります。

弊所では、この企業に勤めている方だと労働組合の積立金がある可能性が高い、この企業の方なら他にも給料振込口座がある可能性が高い等、地域密着型の法律事務所ならではのアドバイスをできることも多くありますので、離婚後の財産分与に不安のある方は、一度ご相談にきていただくことをお勧めします。

 

高額所得者が養育費・婚姻費用分担金の請求をされた場合

1.算定表に沿った金額とすべき

企業の代表取締役や大手企業のサラリーマン、医師などの高額所得者の方の場合、これまで支払っていた金額だからという理由で、又は配偶者からの要求をそのまま呑む形で、高額な養育費や婚姻費用分担金を取り決めてしまう場合があります。

ただ、養育費や婚姻費用分担金は、一度取り決めてしまうと、事情の変更(転職等の理由で給料が減額となった、離婚後に再婚して新たに子どもができた等)がない限り、減額することは難しいといえます。そのため、仮に支払えるとしても、家庭裁判所の算定表に沿った金額とする方がよいでしょう。

子どものために多めに養育費・婚姻費用分担金を支払いたいという意向があるとしても、取り決め上は算定表どおりにしておいて、取り決めた養育費・婚姻費用分担金とは別に、余裕があるときに多めに支払ってあげることはできます。そのため、原則的には、算定表どおりの金額を取り決めることをお勧めします。

2.給与所得2000万円、事業所得1409万円以上の場合

算定表の記載は、給与所得者は2000万円まで、事業所得者は1409万円まで、となっております。そのため、それ以上の収入がある方の場合には、養育費・婚姻費用分担金の算定の際にどうするか、検討する必要がでてきます。

考え方は、大きく分けて以下の2つがあります。

① 給与所得2000万円、事業所得1409万円を超える部分の収入については、養育費・婚姻費用分担金の算定の際には考慮しないという考え方

② 給与所得2000万円、事業所得1409万円を超える部分の収入については、算定表の計算式を修正して、養育費・婚姻費用分担金の金額を算出するという考え方

 

養育費については、基本的に①の考え方が採られています。

婚姻費用分担金については、①と②のどちらの考え方の裁判例も認められますが、基本的には超過部分の金額に応じて使い分けられています(給与所得約2900万円の場合で①の考え方を採った裁判例として大阪高決H17.12.19。給与所得約3800万円の場合で②の考え方と採った裁判例として大阪高決H18.1.18)。
なお、子どもの高額な習い事の継続を承認している場合などには、養育費や婚姻費用分担金が増額となる可能性もありますので、注意が必要です。

 

高額所得者に対して養育費・婚姻費用分担金の請求をする場合

配偶者が高額所得者である場合に、その配偶者が給与所得者であれば、特に大きな問題は生じないことが多いといえます。しかし、個人事業主の場合には、実際の収入と額面の収入との差が生じ、適切な養育費・婚姻費用分担金を獲得できない可能性があります。

そのため、高額所得者である配偶者が個人事業主である場合には、配偶者が所有する自動車の減価償却費分を額面の収入に加える等、決算書を確認のうえ、適切に収入認定していくことが重要となります。

なお、1人会社の代表者の場合にも、個人事業主と同様に考えることができる可能性があります。

このように、特に個人事業主の高額所得者の場合には、適切な収入認定が困難なことが多いため、弁護士に相談のうえ、養育費・婚姻費用分担金の請求をすることをお勧めします。

 

自分が高額所得者である場合の財産分与

高額所得者の方の場合、特に問題となるのが特有財産です。

特有財産とは、①「夫婦の一方が婚姻前から有する財産」と②「婚姻中自己の名で得た財産」の2つをいい(民法762条1項)、これらは財産分与の対象外となります。

①の例としては、夫婦の一方が婚姻前に貯めていた預貯金等があげられます。
②の例としては、婚姻中に夫婦の一方が親から相続した預貯金・不動産等があげられます。

高額所得者の方の場合には、婚姻前から多額の預貯金を有している方も多いと思われます。その場合、原則的に婚姻前に有していた預貯金は特有財産として財産分与の対象外となります。

また、特有財産として問題となりやすいのが、住宅購入時の頭金です。高額所得者の方に限られるものではありませんが、特に高額所得者の方の場合、住宅購入の際にご両親から頭金の援助を受けることが多いように見受けられます。この頭金の援助が夫婦2人への贈与なのか、実の子への贈与なのか、それとも貸付なのか、等で問題が生じやすいといえます。

この頭金の問題をはじめ、高額所得者の財産分与は、夫婦間だけでの解決が困難な場合が多いと思われますので、その場合には、一度弁護士に相談することをお勧めします。

 

当事務所で取り扱った夫が大手企業に務める高額所得者であった事案

解決事例-年金受給中の妻側の離婚

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