退職前離婚による将来の退職金は財産分与の対象になる?
1. 退職金は財産分与になるのか?
財産分与とは?
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた共有財産を、離婚の際にそれぞれの貢献度に応じて公平に分配することを指します。預貯金、不動産、自動車、保険、有価証券などが対象となり、名義がどちらか一方になっていても、実質的に夫婦の協力で得たものであれば共有財産とみなされます。財産分与の割合は、原則として夫婦それぞれ2分の1ずつです。
退職金が財産分与の対象となる場合
退職金は、給与の後払い的な性格を持つと解釈されており、婚姻期間中の労働の対価として積み立てられた部分は、夫婦の協力によって得られた財産とみなされます。したがって、将来受け取る予定の退職金であっても、財産分与の対象となるのが原則です。
具体的には、以下のケースで対象となる可能性が高いです。
- 定年退職が数年後に迫っており、退職金が支払われる蓋然性(確実性)が高い場合
- 会社の退職金規程などで、支給額の算定が可能な場合
- 既に退職金が支払われている場合
退職金が財産分与の対象とならない場合
一方で、以下のようなケースでは、退職金が財産分与の対象とならない、あるいは評価額が低くなる可能性があります。
- 勤務先の経営状態が悪く、将来倒産するリスクが高い場合
- 退職が遠い将来で、実際に支払われるかどうかの不確実性が高い場合(例:20代、30代での離婚)
- 功労金・恩恵的な性質が強い部分(例:役員退職慰労金のうち、個人の特別な功績によると認められる部分)
- 勤続期間が短く、財産としての価値が低いと判断される場合
退職金の分割方法と計算例
財産分与の対象となる退職金は、原則として婚姻期間(同居期間)に相当する部分です。その計算方法は事案によって様々であり、ここで紹介するのは、あくまで一般的な考え方の一つです。
【計算の基本式】
【計算の考え方(一例)】 財産分与の対象額は、以下の要素から算出するのが基本的な考え方です。
財産分与の対象額 = ①算定の基礎となる退職金額 × (②婚姻期間(同居期間) / ③勤続期間)
実際に受け取れる金額 = 財産分与の対象額 × ④分与割合(原則1/2)
④分与割合については、夫婦の協力度に応じて原則として2分の1とされますが、夫婦の一方の特別な努力や能力によって財産が形成されたと認められる場合など、個別の事情によって割合が修正されることもあります。また、①算定の基礎となる退職金額を「離婚時(別居時)の自己都合退職金」とするか、「将来受け取る予定の退職金」とするかなど、どの基準を用いるかによっても計算結果は変わってきます。
【計算例】
- 退職金額:2,000万円
- 勤続期間:30年
- 婚姻期間(同居期間):25年
① 既に退職金が支払われている場合
勤務先から2,000万円が支払われているケースです。
- 財産分与の対象額の計算:
2,000万円 × 25年 ÷ 30年 = 約1,666万円 - 受け取れる金額の計算:
約1,666万円 ÷ 2 = 約833万円
② 将来、退職金が支払われることが確定的な場合
定年まであと数年で、退職金規程から「離婚時(別居時)に自己都合で退職した場合の金額」が算出できるケースです。
- 離婚時に自己都合退職した場合の退職金額:1,500万円
- 財産分与の対象額の計算:
1,500万円 × 25年 ÷ 30年 = 1,250万円 - 受け取れる金額の計算:
1,250万円 ÷ 2 = 625万円
※上記はあくまで単純化した計算例です。実際に将来の退職金を離婚時に清算する場合、会社の倒産リスク等の不確実性を考慮したり、中間利息(将来の価値を現在の価値に割り引くための利息)を控除したりするなど、分与額が調整されることがあります。どのような計算方法を用いるかは事案によって異なります。
2. 退職金の支払いタイミングと注意点
離婚前後での退職金支給の違い
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支給タイミング |
財産分与の方法 |
注意点 |
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離婚前に支給済み |
実際に支払われた金額を基に計算する。預貯金など他の財産と同様に扱えるため、比較的算定しやすい。 |
既に費消してしまっている場合、財産隠しが疑われるケースもあるため、使途を明確にする必要がある。 |
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離婚後に支給予定 |
離婚時に一括で清算する方法と、将来の支給時に分与を受けると約束する方法がある。 |
・一括清算: 離婚時の自己都合退職金を基準にすることが多い。将来の不確実性を考慮し、金額が割り引かれる可能性がある。 |
将来の退職金を見据えた財産分与の対策
将来の退職金を確実に財産分与の対象とするためには、証拠の確保が重要です。
- 就業規則・退職金規程の入手
- 給与明細や源泉徴収票(勤続年数の証明)
- 退職金の見込み額が分かる資料
これらの資料がない場合、弁護士会照会や調査嘱託といった法的な手続きを通じて、裁判所から勤務先に資料の開示を求めることができます。
退職金がない場合
勤務先に退職金制度がない場合や、自営業の場合は、当然ながら退職金を財産分与することはできません。その代わり、夫婦が協力して形成・維持してきた他の財産(預貯金、保険、不動産など)を正確に評価し、公平に分与することがより重要になります。特に個人事業主の場合、事業用資産が財産分与の対象になるかどうかが争点となることがあります。
3. 50代女性が退職前に知っておくべき財産分与のポイント
長年の婚姻期間と退職金の関係
50代の離婚、いわゆる熟年離婚の場合、婚姻期間が20年、30年と長くなることが多く、勤続期間の大部分が婚姻期間と重なります。そのため、退職金のほとんどが財産分与の対象となり、分与額も高額になる傾向があります。退職金は老後の生活を支える重要な資金源であるため、熟年離婚においてその扱いは極めて重要です。
老後資金としての退職金を守る方法
ご自身の老後資金を守るためには、安易な譲歩は禁物です。
- 年金分割を忘れずに行う:財産分与とは別に、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する「年金分割」の請求が可能です。老後にもらえる年金額に直結するため、必ず手続きを行いましょう。
- 他の財産と合わせて総合的に判断する:「自宅はもらう代わりに退職金は請求しない」といった提案をされることもあります。不動産の価値と将来受け取れる退職金の価値を冷静に比較し、総合的に有利な条件かを慎重に判断する必要があります。
- 専門家である弁護士に相談する:退職金の計算や相手方との交渉は専門的な知識を要します。感情的な対立を避け、ご自身の正当な権利を確保するために、早期に弁護士へ相談することをお勧めします。
4. 将来の退職金に関する財産分与は当事務所にご相談ください
将来の退職金に関する財産分与は、算定方法が複雑であり、相手方との交渉も難航しがちな分野です。 「相手が退職金の情報を開示してくれない」 「提示された分与額が妥当か分からない」 「将来きちんと支払われるか不安だ」 このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
当事務所では、証拠収集のサポートから、法的に妥当な分与額の算定、相手方との交渉、調停・裁判の代理、そして将来の支払いを確保するための公正証書作成まで、一貫してサポートいたします。お客様の新たな人生のスタートを、法的な側面から力強く支援します。
【ご注意】
本記事に記載されている退職金の財産分与に関する計算式や計算例は、あくまで一般的なケースを想定した一例です。
実際にどの時点の退職金額を基準とするか、どのような計算方法を用いるか、分与割合をどうするかといった点は、個別の事案や夫婦間の協議、裁判所の判断によって異なります。
ご自身の正当な権利を確保するため、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。









